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幸せになれば良い。
色んな苦難を乗り越えて、ついに一緒にいられるようになる、というカップリングにはやっぱどっぷりです(*^_^*)
呂雄×愛麗
「呂雄・・・」
かすかなうめき声と共に自分の名前が呟かれたので、呂雄は目を覚ました。
またか、と思ったのは、これが初めてではないからだ。
周りは夜に支配されている。
しかし、灯りがなくともその声を上げた主なら良く分かっている。
「呂雄・・・」
眉をぎゅっと寄せて、彼の腕の中にいる愛麗はがたがたと震えていた。
呂雄は毎夜のごとく、彼女の手を握った。
「大丈夫だ、愛麗。俺はここにいる」
その声は彼女に届いているのだろうか。
手を握り返してくる愛麗の力は、いつもこれ以上ないというほど強かった。
何があっても絶対に離さない。
一度、毛布を掛け直そうと、手を離そうと試みたのだが、信じられないことに呂雄が力で負けたのだ。
そのくらい、愛麗は呂雄の手を離さない。
否、離すことを恐れていた。
「呂雄・・・!」
彼女は、一体どんな夢に侵されているのかといつも思う。
どうやらそこには自分も存在しているのだろうが、夢の中の自分は何をしているのだろう。
愛麗を傷つけるなど、夢の中の自分であっても許し難い。
呂雄は、自分でも大人げないとは思ったが、夢の中の自分に嫉妬し、夢の中の自分に負けられぬと、まるで奪い返すように掴まれていない手で彼女を抱く。
「俺はここだ。ここにいる。愛麗、こっちだ」
戻って来い、現実の俺のもとへ。
お前が見ているのは、たちの悪い夢なんだ。
愛麗の額に、そっと唇を落とす。
「呂雄!?」
「うわっ!」
呂雄の思いに応えるかのように、突然愛麗が目を覚ました。
「びっくりした。どうした? 目が覚めたのか?」
もしかして、額に口付けたことで起きたとか?
愛麗が寝ているときには何とも思わなかったが、それがきっかけで目が覚めるなんて、そんな設定、彼女の好きそうな恋愛小説みたいで恥ずかしい。
しかし、愛麗はただじっと、呂雄の目を見返しただけだ。
「愛麗、お前、本当にどうしたんだ」
愛麗、と何度か名前を呼んだところで、いきなり彼女はぼろぼろと涙をこぼし始めた。
「なっ!? ば、莫迦! 何泣いているんだ」
いきなり泣かれたことは初めてだ。
何故だか罪悪感に襲われながら、呂雄は愛麗をしっかり自分の胸の中に抱く。
すると、懐からくぐもった声が聞こえてきた。
「本物の・・・本物の呂雄だ・・・! ちゃんと目の前にいて、生きてる・・・ちゃんと、手を握ってる・・・」
愛麗はそれだけ言うと、声を押し殺しながらいよいよ本格的に泣き始めてしまった。
何が原因なのかは分からない。
夢の中できっと、良くないことが起こったのだろう。
自分に縋るように手を握り続ける愛麗に、呂雄は胸がいっぱいになった。
「俺の偽物はいないよ。こんなにおまえを思っている奴が、他にいるもんか」
「うん・・・」
愛麗はようやく顔を上げた。
真っ赤になった目元が切げに揺れている。
「そんなに、嫌な夢なのか?」
「え?」
「お前をそんなに泣かせるほどの悪夢を見ているのか?」
「・・・うん。悪い夢、だよね」
それは自分にも言い聞かせているような口調だった。
「夢だよ。そこに出てきたお前も俺も、全部夢だ。こうして抱き合っているのが本物の俺達だよ」
「でも、怖いよ。だって、あの中では私はいつも、呂雄の手を離してしまうから」
彼女の夢の中では、二人は別れ別れになってしまうようだ。
そんな夢を毎夜見ては、全身を震わせて怯えているのか。
「今は、ほら。ちゃんと繋がっているだろう。お前の手を離したりしないよ」
「・・・本当? 離さなくても良い?」
「何で離さなきゃいけないんだ。そんなこと、俺が許さない」
たとえ何があっても、この手は離さない。
その誓いを込めて、愛麗を抱きしめた。
「うん・・・うん。呂雄、ありがとう」
愛麗は何度もうなずきながら、ぎゅっと呂雄の服を掴んだ。
こんなに小さな存在だったろうか。
皇后になっていたときなどは、存在の大きさにいつでも驚かされたものだ。
しかし、腕の中にいる彼女はとてもはかなげで、今にも消えてしまいそうだ。
「俺はここにいるだろ」
愛麗の手をとり、自分の頬に当てる。
「あったかい・・・」
「そうだろ? 夢でも幻でもない」
呂雄は自分の手も愛麗の頬に伸ばす。
触れられずにいた距離が長かったせいで、今でも何度でも触れて確かめたくなる。
少しだけ身をかがめて、呂雄はそっと愛麗に口付けた。
「泣くなよ。これで泣きやんだか?」
しかし、愛麗は首を振る。
「やだ。泣きやまない」
「おっ、お前な・・・!」
「だって、泣きやんだら、もう一回はしてくれないでしょ?」
上目づかいに潤んだ目。
うっ、と呂雄が息を呑んだのを、愛麗は見逃さなかった。
「もっとしてくれたら、泣きやむ」
そう言って、目を閉じる愛麗。
あとは呂雄次第。
「・・・・・・」
真っ赤になった呂雄は、はあとため息をつく。
何でこうも無防備なのだろうか。
だが、それも自分だけに許された甘えなのだと思うと、ため息は苦笑に変わった。
「分かったよ」
息がかかる距離まで顔を近づけると、それに気づいた愛麗が目をつぶったまま身を固くした。
「しすぎても、怒るなよ?」
「大丈夫、私より呂雄の方が先に窒息すると・・・んんっ!?」
呂雄は無理矢理愛麗の言葉を遮る。
びっくりした愛麗の抗議もすぐに止んだ。
いつの間にか彼女の腕が呂雄の首に絡まっていた。
優しく捕らえて、捕らわれて。
離れることはできない。
「・・・は・・・愛麗・・・お前を、離したくない・・・」
「うん・・・離さないよ・・・」
何度も何度もお互いに愛の言葉を囁きながら、二人の夜はゆっくり更けていく。
その間ずっと、二人の手が離れることはなかった。
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